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飛鳥京香/SF小説工房(山田企画事務所)

飛鳥京香/SF小説工房(山田企画事務所)

★ジャップス=デイズ ビッグオープニンング〉ー日本人の日として発表

★ジャップス=デイズ ビッグオープニンング〉ー日本人の日として発表


「日本本土に対するミサイル攻撃ですよ」
「何だって」
「ミサイル数発が日本本土を直撃します」
「しかし、そんな事が許されるのか」
「許すも許さないも、今や。ライン「ルトは地球を支配しているの
と同じですよ。確実にミサイルは日本を直撃します」
 「しかし、各国の日本占領部隊もいるはずだぞ」
 ブキャナンは軽く、花田の杞憂を受け流す。
 「彼らは日本抹殺のための人柱となるわけですよ。彼らがどんな固
い意志を持っているか充分わかっていただけるでしょう」
 「わかった。具体的な日時を教えてくれ」
 「それに対する対策を考えるというわけですか」
 二人はおだやかなパリ、シャンゼリゼ通りの夜景を背景に恐ろし
い事実を話しあっていた。
 カフェに大男が飛び込んできた。もう人影はない。
「花田はどこだ」
「そんな方はこられておりませんが」
 ウエイターが言う。
「うそをつくな。先刻まで花田がいたはずだ」
 店の者の姿をじっくり見る。
 「貴様、情報サイボーグだな。情報マフィアめ。ジャップとも手を
くもうとするわけか」
 「あなたこそ、我々、情報ネットワークサービスにケチをつけるわ
けですか。悪いうわさ、特に我々に対する悪いうわさを消さなけれ

ばなりません、クーラーの人」
 「おもしろい、お前たちと戦えというわけか。そうすれば花田を渡
すというわけか」
 「先刻も言ったように、そんな人は知りません。ただ我々、INS
は理不尽な汚名には対抗するだけですよ」
 大男は、腕をひとふりする。両手の指がすべて(イチタンのレザ
ーメスに変化していた。
「ほう、あなたもクーラーの戦闘用サイボーグというわけですね。
それともあの有名な切りさきジャックかな」
「だまれ」
 大男はあたりを一閃する。
 椅子とテーブルがバラバラになって飛び散った。切り口は鋭い。
 情報サイボーグはたくみに体をかわし。大男の指のナイフから逃
がれる。が、建物の壁ぎわに追いこまれる。
「覚悟しな。お前も、あのテーブルの様にバラバラにしてやる」
 が、情報サイボーグはにやりと笑っている。
「その笑顔もここまでだ」
 大男の両手がIセンする。
 瞬間、大男の方が黒焦げで倒れていた。
 少し離れた店の中から、二人の男がその光景を見ていた。
「花田さん、どうですか。我々がクライアントに対して忠誠を尽す
ことを充分に理解していただいたでしょうか」
「情報サイボーグは放電したわけだな」
「そういう事です」
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「すてきな茶番劇を見せてくれてありがとう、ブキャナン」
「お手助けできる事があれば言って下さい」
 花田は、店から出て、露地の闇に消えていった。
二〇〇四年 十二月 アフリカ奥地 ビザゴス共和国 アコンカ
グワ山近く
 火が燃えていた。その炎を囲んで原地人達が昔から続く戦いの踊
りを舞っている。しかしその踊りには若者はいず、年寄りばかりだ
った。アシュア族の戦いの舞いだ。
「酋長、ありがとう」
 日にまっ黒に焼けたアジア太が踊りを見ながら言う。
 「いやいや、ブアナ雛臣、お前は戦士だ。日本人一の戦士かもしれ
ん。我々は勇者には勇者の血を持って答えなければならない」
 酋長ワナガはしわくちゃの顔で言う。
 「酋長、我々のロケットを発射したあと、すぐさま、ここから逃げ
てくれ」
 「わかっておるよ、勇者角田よ。お前達はこれから大空のもっと遠
くで戦かうじゃな。それは神々の戦いかもしれん」
 「本当に協力をありがとう、ワナガ」
 二人はだきあった。
 「いやいや、我々は昔、日本人の技術者から大変世話になった。我
々の国の農地が増えたのも日本人のおかげじゃ。この恩返しをしな
ければな。我々は文明人じゃなくなる」
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 「ありがとう、ワナガ」
 角田は涙ぐんでいた。恐らく、アシュア村の側に設置されたロケ
ットランチャーからロケットが発射されたことはすぐ発見されるだ
ろう。そうすれば、この村はJVOから攻撃され、皆殺しになるだ
ろう。が俺達日本人は彼らにしてやれる事は何もない。なぜ彼らは
我々日本人にやさしいのだ。
 角田の目がしらはそれであつくなるのだ。
 「そうじゃ、ブワナ角田。わしのかたみをやろう。わしもその宇宙
ステーションとやらへ行って戦いたいところじゃが、何せこの年で
はな、体が動かんからな」
 酋長ワナガから角田は短剣を受けとる。
 「でも、酋長、これはあなたの種族に古くから伝わる王者の剣では
……」
 「いや、いいんじゃ、もう我々には狩るべき動物など、残ってはお
らん。地球連邦から受けとる年金だけで暮していける。それが我々
から勇者の血をぬきとってしまった。若い奴らも都市へ出ていって
しまい、もう本当の狩人などおらん。その血を感じるのはお前たち
日本人だけじゃ。ああ、そうじゃ、一つだけ頼みがある」
 酋長ワナガは思い出したように言った。
 「何でしょう。私か役に立つ事でしたら」
 6歳くらいの子供が、側にやってきた。
 「これは私の孫ソンガじゃ、一緒に連れていってくれんか」
 「でも、酋長、我々は……」
 「わかっている。だがこの地にいても死の運命からは逃がれられん
じゃろう。この子ソンガは、わしらアシュア族の狩人の血を受けつ
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いでいる数少ない子供の一人だ。あとの奴らは観光事業とかやらで、
家畜化されておる。このビザゴスの国も、もう終りじゃろうて。な
あ、東の勇者よ。頼む。この子を連れていってくれ。王者の剣とと
もに」
 酋長ワナガの意志は強かった。
 「わかりました。酋長がそこまでおっしゃるのでしたら」
 角田はその子の肩をだいた。
 「いいかい。ソンガ君、我々は明日、星へ行く」
 「ああ、俺は。おじいの血をひいた最後のアシュア族の「ンターだ」
 ソンガは6歳とは思えない力強い声でいった。眼がキラキラと輝
いている。
 「地の上も、空の上もかわりはしない」
 そういって、ソンガは白い歯を見せた。
 「心強いよ、ソンガ」
 「角田、ありがとう。この孫ソンガに本当の戦いというものを、そ
して日本人の勇者の血を見せてやってくれ」
 「わかった。ワナガ、約束しよう」
 「いいか、ソンガ、角田達は、日本人の中でも選ばれた勇者なんじ
ゃ。昔、日本が滅びそうになった時、神の怒りの風が吹いて日本を
救ったという事実がある。角田達もそれなんじゃ。神の風なんじゃ」
 「ねえ、角田、あんたは一人で行くのかい」
 「いや、我々は、七人だ」
 「そうかい。風の七人かい」
 「たぶん、生き残れるのは数人だろう。あるいは全員死んでしまう
かもしれない。が我々が失敗すれば。多くの日本人が死ぬ事になる」

「角田、あんたが死んだら、俺が葬式をしてやるよ」ソンガが言っ
た。
「ありかたい。頼むぞ、ソンガ」
 角田は笑って答えた。
 アシュア村の近くの広場には、広大な映画のオープンセットが作
られていた。
 イスラエル製作の映画「アフリカのロケ。卜」の撮影という事に
なっている。
 アフリカの魔術師たちの魔術でロケットを打ちあげるというスト
ーリーになっている。
 事実、カタパルト形式で、成層圏まで小型のロケットを打ち上げ、
そこでロケ。卜を数機組み上げ、宇宙ステーションまで行く予定な
のだ。
 地球の各地で、日本人に協力してくれる人達の助けを受けて、口
ケットが飛び立とうとしていた。
二〇〇四年 十二月 ゼウスステーション
 「オーガナイザーブキャナン。日本人共のロケ。卜発射地点が7個
所と判明しました」
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「やってくれるな、ジャップ共。さて、何機アルゴステーションま
で辿りつけるかだ」

オペレーターはブキャナンヘデータを渡した。
ブキャナンはそう言いながらデータを見る。

アコンカグワ
アマソン日シティ
インドネシア ポロブドール
マダガスカル
タイ奥地
南極 光明基地
南太平洋上 潜水艦「嶺」
角田 博
高野周三
朝賀 健
船井光一
塚本 猛
村上子馬
花田万頭
「花田おんたい自ら出馬か」
 がブキャナンは一人の名に目をとめる。
「おい、間違いなく、アマゾン=シティから、ケン=アサガが出発
したんだな」
 ブキャナンは驚きの表情でオペレーターに問いつめた。
 ブキャナンの勢いに驚きながらオペレーターは答える。
 「はい、間違いありません」
 「くそっ、アサガめ、何を考えているんだ。せっかく。我々がリビ
アまで送り込んでテロリスト技術を覚えこましたというのに」

二〇〇四年 十二月 マダガスカル島
 船井のロケ。卜はようやく成層圏に達していた。マダガスカルの
古い商船からカタパルト式で打ちあげられた船井は大喜びだった。

 追撃してきた戦闘機は、ある高度以上になると爆発した。
 日本人の別動グループがJVOの飛行機にセットしておいたので
ある。
 皆とのアポイントメイント地点に迎う船井だったが、急激に大き
な鷲が襲ってきた。その鷲は船井のロケ。卜をふき飛ばした。
 キラー衛星a-13が上昇中だったのである。乗っているのは。ア
ントン=ヤノーシュ。
 クーラーの人間だった。
二〇〇四年 十二月 アルゴステーション
 地球からのカーゴロケ。卜がロケット発着場に到着していた。ア
ルゴにもロケットにもラドクリフのマークがはいっている。
 「おい、ジョン、今日のお荷物は何だい」
 (Iランはパイロットのジョンに声をかける。
 「さあ、知らないよ、伝票を見てくれよ」
 荷物係の(Iランは伝票をディスプレイで見てみる。(Iランは
変な叫び声をあげる。
 「おいおい、ジョンよ、こいつは驚きだけだぜ」
 カーゴロケットパイロットのジョンは(Iランの言葉につられる。
 「どうしたんだ」
 「このカーゴロケットの荷物全部がボスからの皆への贈り物だとよ」
 「えっ、あのケチのライン「ルトからか。アルゴステーションの乗
組員への贈り物をするんだって。信じられんなあ」
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 「そりゃ、我々、アルゴステーションは今から大きな仕事をするか
らなあ。ボスでなくっても贈物がしたくなるってことさ」
 (Iランは荷物を倉庫にしまう。やがて倉庫からはシュートを使
って各家庭、各部屋へとこの贈物が、送り込まれていく。
 居住エリア。このアルゴステーションには5千人の人間が住んで
いたが、そのすべての人間がこのプレゼントを受けとっていた。
 箱をあけた大人達は驚く。
 「こりゃ、何んだ」
 中には高さ15mくらいの物体が包まれていた。
 「東洋の人形じゃないか」
 「どうやら日本人形らしいぞ」
 「ボスも趣味が悪いな」
 パッケージを開けた瞬間から日本人形は変化していた。ステーシ
ョンの人工空気と混じり合い、即効性神経ガスを生じ始める。
 ステーション内に静かに死が訪れている。
 アルゴステーションはいわゆるドーナツ型のステーションで中央
にある大型チューブのまわりをドーナツの様に居住区が囲んでいる。
 大型チューブ部分の上方には集光板があり太陽熱を集めている。
チューブ部分の上から三分の一までにはアルミニウムの反射板が付
けられていて、開閉ができる。
 チューブの中央部分にはシャトルやロケットの発着場が設けられ

いる。
 コンソールルームに最後まで残っていたミサイルオペレーターは
日本へのミサイルの発射スイッチを押そうとする。
 死に前に最後の一発をくらわしてやる。そう決意していた。

 日本人形は恐らく日本人亡命グループのしくんだ事だろう。簡単
なトリックで五千人の人間が死んでしまった。コンソールの上で、
彼の手は動く。どのスイッチだ。薄れゆく彼の眼には、もうスイッ
チ位置が見えてはいなかった。
 彼も力つきて、コンソールの上に手をのばしたまま死んでしまう。
 アルゴステーションのコンピューターは自己防禦機構を作動させ
ていた。中央機械層のシャフトの中から、人の形があらわれていた。
 ガスが立ちこめるアルゴ=ステーションの中で動く人影。アルゴ
ステーション防禦サイボーグ、ヤコフ21である。
 ヤコフ21は今まで中央機械層で眠込んでいたが、アルゴのコンピ
ューターは彼の頭に現在までの情報をすべて入力していた。
 ヤコフ21は、死の臭いがするアルゴステーションでI大ほくそえ
んでいた。
 「ふふっ、ジャップのやろう。なかなかやるじゃないか。簡単なグ
ラフでやられるとは、このアルゴステーションには、まともな人間
などいなかったのか。わかった。アルゴにはけっしてジャップをい
れんぞ」
 ヤコフ21は地球のアルプス要塞へ連絡しようとしてコンソールル
ームへ入る。
 情報回線をオンにするが、JVO本部には通じない。なぜだ。
 やがてヤコフ21は情報回線がバラバラに断線している事に気づく。
 「ちくしょう。日本大形共め。稼動できる日本人形もあったのか」
 その直後、ヤコフ21の背後から、直径5mのミニロケ。卜が発射
された。
 ヤコフ21は飛びのき、その発射された方向にレザーガンをばらま
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 小型の人形が吹き飛んだ。日本人形だった。亡命日本グループが
丹精に作りあげた暗殺用日本ドールであった。
 こんなこねずみみたいな奴らがアルゴ=ステーション内をうろつ
いているとすると気をつけねばならんな。ヤコフ21は危険を背面に
感じていた。
 アルプス要塞の通信オペレーターは、アルゴステーションの異状
に気づく。
 「チーフ、大変です。アルゴステーションとの回線が不通になりま
した」
「よ1し、もう一度チェックしろ」
「だめです。補助回線も復帰しません」
 通信オペレーターのチーフ、ブライアンは恐るべき知らせをライ
ン(ルトに報告しなければならなかった。
「ライン「ルト議長、アルゴステーションが通信不能になりました」
「どんな情勢なのだ」
「どうやら、アルゴステーションには生命が存在しないようです」
「なんだと! 聞いたか、ファーガソン」
「日本人の奴らのしわざかもしれませんな」
「なぜ、アルゴステーションをねらったのだ」
「あの計画がもれたのかもしれません」
「ミサイルはすでに運びこまれているのか」
「そうです。いつでも発射可能です」

 ライン(ルトはしばらく考えていて、あることに気がついていた。
 「ファーガソン、アルゴステーションの近くには有人殺人衛星はな
いのか」
 ファーガソンは近くにあるコンソールに向かいキーボードをたた
いていた。
 ファーガソンがうれしそうな声をあげる。
 「近くにa-13が存在します。乗員はアントン川ヤノーシュです」
 「よし、ヤノーシュをアルゴステーションに向かわせろ」
 「でも、アルゴステーションには対キラー衛星装置が装備されてい
ますが」
「かまわん、ヤノーシュならうまくやるかもしれん」
 日本人の合体ロケット「富士」はようやくアルゴステーションの
ロケット発着ランチャーに接舷していた。
 ステーションのバリヤー装置は作動していない。日本人形作戦が
成功しているようだ。先行して送りこまれた日本人形が、アルゴス
テーションの防備装備をバラバラにしているはずだった。
 だが、どこまで、アルゴステーションの防禦装置を裸にしている
かは疑問だった。
 が、少なくとも、ランチャーまでは到着できた。
 角田は腕時計のディスプレイを見ながら、ステーションの脱出用
(ツチに辿りつく。後には宇宙服を装着したソンガが続いている。
 ステーションに辿りつくまで、三機が地球防衛圏内で攻撃破壊さ
れていた。残る四機が中間地点で合体していた。合体ロケットの名
は「富士」である。
110

 アルゴステーションまで辿りつけたのは、花田、角田、村上、朝
賀の四名だった。
 中にはいろうと脱出(ツチを開けた瞬間、光条がステーション内
からのびてきた。すばやく反応して、逃がれる。光線銃だった。自
動防禦システムだろうか、そう考えている彼らの宇宙服のインカム
に声が入ってくる。
 「(イ、ジャップ共、今のは、俺からのあいさつだと思ってくれ。
ここから先は、お前たちを一歩も入れないぜ」
 「彼には例の神経ガスは効かなかったのでしょうか」
 短躯の村上が、花田に尋ねる。その答えは相手側から返ってきた。
 「俺は、このアルゴステーションの防禦サイボーグ、ヤコフ21だ。
俺以外の人間は、お前たちの人形のおかげて、全員くたばっている
さ。俺に勝ちさえすれば、このアルゴステーションはお前たちジャ
ップのものだぜ」
 ヤコフ21が花田たちに注意が集中している間、日本人形たちは機
械中枢部を破壊にかかっている。
 「おIい。早く入ってこいよ。もう酸素がなくなるぜ」
 花田達は、一度、「富士」にもどろうとした。
 が、その一瞬「富士」は爆発する。
 「くそっ、一体なぜ」
 朝賀が叫んでいた。その時、再びインカムにヤコフ21の声が響い
てくる。
 「ふふっ、俺が爆発させた。もう、お前たちはそこにへばりついた
ままだ。早く入ってこないとな」
 「くそっ」

 叫びながら村上が、別の脱出(。チにとりつく。
 「やめろ、村上」
 他の三人は叫んでいたが、遅かった。
 光条が走り、村上の体はまっ二つに吹き飛ばされる。
 「まずは一人だ。早く入ってこいよ。楽しみはこれからなんだから
な」
 ヤコフ21は舌なめずりをしながら、コンソールルームにすわって
いる。彼の前には全ての(ツチのモニターTVが映しだされていた。
このコンソールですべての自動レイザーガンシステムを作動させる
事が可能なのだ。
 「花田さん、何とか突入しましょう。我々の維持装置の酸素量も少
ない。それに突入したところで、アルゴステーション内にはまだ神
経ガスが残っているはずだ。つまりは我々は宇宙服を着ていないと
アルゴステーション内でも行動できない事です」
 朝賀が真剣な表情で言う。
 「あるいは、宇宙ステーションの各所に穴をこじ開け、空気を抜い
てしまうかだ」
 花田がいう。
 「もう一つ、人工重力装置を破壊して、ステーション内を無重力状
態にする事も考えられます」
 角田が思いつめた表情で言う。
 全員が腕時計のディスプレイを見た。
 「ヤコフ21のいる場所は中央制禦室と考えられます」
 「とすれば、この中央制禦室真下に重力発生場があります。ここを
破壊すれば、少なくとも、我々は動きやすくなります」

111


 角田は勢いこんで発言した。
「わかった。角田、その重力発生場は君にまかせる。ソンガもつれ
ていけ」
 角田とソンガは残っていた救命用の宇宙スクーターを操縦し、ス
テーション最下部へむかっていった。
 ヤコフ21はモニターを通じ。日本人達の動きを観察していた。
 「どうやら重力発生装置を破壊するつもりらしいな」ヤコフ21は独
りごちた。
 ヤコフ21は中央制禦室を自動操縦にしておいて、自らも自動重力
発生装置のあるステーション基部へと向かっていった。
 朝賀は非難の眼を花田に向けていた。朝賀は手話で花田に抗議す
る。
 『あなたは、角田とソンガをおとりとして使いましたね。なぜなん
ですか』
 『朝賀くん、彼らがヤコフ21をひきつけている間に、我々はステー
ションの中に突入できる。そうだろう』
 花田も手話で、朝賀に答えた。さらに続ける。
 『いまさら、一人二人の命にこだわっている時ではない。この作戦
に失敗すれば、日本は消滅するのだ。それは君にもわかっているだ
ろう。さあ、早く、ヤコフ21の眼が重力発生装置にむけられている
間に」
 花田と朝賀は、先刻、破壊されたロケット発着場へと向かった。
「ソンガ、いいか、ここが私の死に場所になるかもしれん」
「いいよ、角田、僕は、あなたの(ンターとしての腕前を見ておこ

う。もし僕の子孫が狩人の種族として生き残っていくならば、角田
の戦いの唄を作り、我々のアシュアの種族が続く限り唄い続けてあ
げる」ソンガは真剣な表情でいう。
 「ありがとう、ソンガ。俺は歴史上の人物になれるわけか」角田は
にこっと笑う。
 脱出(。チを開け、宇宙スクターをそのまま侵入させる。自動レ
ザーガン発射装置はスクターに照準を合わせる。
 角田はスクターの速度を最大限にあげ、自分の手から離した。
 スクターはレザーガンを受けながらも直進する。レーザーガンの
照準装置に乗りあげ、停止した。
 「ようし、上へあがるぞ。ソンガ」’
 何十mの脱出路をはいあがると、広い場所に出る。上を見上げる
と、何百mの高さがあるのだろうか、重力場発生装置がそびえてい
た。角田とソンガはコンピューター制禦装置をさがす。ようやくさ
がしあてだ角田はそこに爆弾をセットする。
 「OK、ソンガ、ここから一応、脱出しよう」
 下の広場に降りて、脱出ルートへ向かう。
 が、脱出口がふさがれている。
 「くそっ、制禦システムが作動したのか」
 背後から、レイガンの光条がひらめく。角田が背に装着していた
パルスライフルが吹き飛ぶ。
 「ジャップめ、待っていたぞ。俺がヤコフ21だ」
 ヤコフ21の顔は能面の様で表情がみえない。体は機械部分の集合
体の様だ。背の高さは見上る程だ。
 「くそっ」
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 角田が動くより早く、ソンガがヤコフ21の前まで、走り込み、飛
びかかっていた。
 「こわっぼめ」
 ヤコフ21はソンガの体あたりをかわし、右手を一閃し、ソッガを
壁ぎわまで吹きとばした。ソンガは壁にぶちあたり、動かなくなっ
た。
 「おやおや、やわなガキだな。さあ、大人のお前なら、充分相手に
なってくれるだろう」
 ヤコフ21は両手をひろげ、角田をつかもうとする。すばやく角田
は逃れようとするが、ヤコフは体の大きさに比してすばやく動く。
角田は左手をつかまれた。身長2m30mのヤコフは角田の体をゆっ
くり持ちあげた。
 「さあ、ジャップ。まずは左手からちぎってやろうか」角田の左手
は痛さでちぎれそうだ。
 ヤコフの能面の様な顔からは表情は見えないが、勝ちはこった声
だった。
 角田は右足でヤコフの右眼をつきやぶる。
 角田の宇宙服の右足には、(イマンガンスチールの突び出しナイ
フが付いていた。

 「ぐわっ」ヤコフは痛みと驚きで、思わず、角田の体を投げ飛ばす。
 角田の体は重力場の作業用テラスまで投げ出された。このテラス
には作業用マニュピュレーターのコンソールがあった。
 角田はコンソールを操作し、3本の作業用マニュピュレーターを
使いマコフの体をがっちりととらえる。
 角田はこのマニュピュレーターを使いヤコフの体を壁にぶつける。

 がヤコフ21は両手でマニュピュレーターの一本を持ち、途中から
ボキリとちぎり取った。
 ヤコフ21は力いっぱい壊れたマニュピュレーターをコッッールに
むけて投げる。
 マニュピュレーターは槍の様にコンソールをつき破る。コンソー
ルは爆発する。
 角田は一瞬、コンソールテラスから体を投げ出すが。爆風でフロ
アにたたきつけられた。
 ヤコフ21の体が角田の方へやってくる。右眼は見えないようだ。
体についた2本のマニュピュレーターをはじき飛ばす。
 重力場の上の方から誰かの姿が見え隠れする。がヤコフ21はまだ
気づいていない。
 角田は、ヤコフの体がおおいかぶさってきた一瞬、わきに装着し
ていた短剣を突き出す。無意識の動きだ。その短剣は(イチタッの
ヤコフ21の体をつら抜く。酋長ワナガから与えられた短剣だった。
 「ぐわっ」短剣はヤコフ21の中枢機能まで突き届いていた。
 ソンガは、ヤコフ21に投げ出されていたが、意識が戻ってきた。
 ソンガも、ワナガからもらった王者の槍を持っていた。
 苦しんでいるヤコフ21の首すじに槍をつきたてだ。槍は首をつき
抜ける。命令回線を破壊した。
 ヤコフ21は後をふりかえる。右手でソンガの頭を打ちすえる。
 さらにヤコフの左手が、再びソンガの体を空に浮かべていた。
 「角田、これを受けとれ」叫び声だ。
 重力場の上から、花田の姿が見え、何かを角田へ投げた。
 日本刃だった。落ちてくる日本刃をはっしとつかんだ角田は、さ
113


やから抜き、日本刃を一閃する。
 ヤコフ21の(イチタンの体は、まっ二つに切りさいた。けさがけ
に切りおとす。
 (イチタンの体を、古代の鍛えられた武器が切りさいたのだ。
 角田は、宇宙服の中で血まみれになっているソンガの側へ走り寄
る。
「ソンガ、聞こえるか」
「ああ、角田、僕達は勝つたんだね」わずかに口を開いた。
「ああ、君のおかげさ、ありがとう」
「ねえ、僕は勇者だったろう」
「そう、君は勇者だ」ソンガは静かに眼をとじる。
 ソンガは息たえた。
「ソンガ」
 角田はソンガをだきかかえる。
 地上では、ワナガのアシュア族の部落は、飛来してきたヘリの攻
撃を受けていた。
 JVOの連中である。日本人を助けたための制裁処置だった。
 『おじい、僕は勇者になったよ』
 ソンガの声が聞こえたような気がした。
 「孫よ」
 ワナガも向かってきた攻撃ヘリのコ。クピ。卜に槍を投げ、見事
に、コックピット内の操縦手の胸をつき抜いた。
「くそっ、こいつめ」

 副操縦手はワナガに向かって重機銃を集弾させる。
 ワナガの体はバラバラに吹き飛び、アフリカの大地に血が流れ、
しみ込んでいった。 。
アルゴステーションに再び危機が迫っていた。
 キラー衛星が近づいていた。乗っているのはアントン=ヤノーシ

「日本人共め、レザー光線を受けてみろ」
 ヤノーシュはレザーの発射スイッチを押す。レザーは直進し、ア
ルゴステーションに横穴をあけていた。衝撃が襲った。
 重力場にいた三人は顔を見合わせる。
「どうしたんだ」
「よし、早く、コンソール=ルームへあがろう」
 三人は、ソンガの死体を横たえ、シャフトのエレベーター・に乗る。
 角田はコンソールにすわり、バリヤーを張ろうとする。
「花田さん、だめです。最初の一撃でバリヤー装置がやられていま
す」
 「それに、日本人形が統制回線をバラバラにしてしまっています」
 隣りにすわった朝賀も叫んでいた。
 「我々が、このアルゴステーションを無防備状態においたのだ。そ
れが裏目に出たか」
 花田は静かにつぶやいた。
 「一つ、方法があります。やって見ましょう」
 CRTをのぞいていた朝賀が言った。
114




 「このアルゴステーションに稼動可能な高速救命艇が一機だけ残っ
ています。それでキラー衛星とさし違います」
 「しかし、それは」花田はいいよどんだ。
 「花田さん、さっき、あなたはおっしゃったはずです。いまは一人
二人の命の問題ではない。我々が成功するか否かに日本民族の生存
の問題がかかっていると」
 「確かにそうだ。がその艇の操縦は」
 「私がします」朝賀がいいはなった。
 「角田は、先刻のヤコフ21と戦ったばかりです。花田さんはこれか
らの日本人になくてはならない人です。そうなれば私しかいない」
 「しかし、話はわかったが、私かいこう」
 花田がいう。一瞬後、角田があて身を花田に加える。花田は意識
を失なう。
 「すまん、朝賀、お前が行ってくれ」
 「わかった、あとの事はすべて頼んだぞ」

 キラー衛星a113へ、朝賀の乗った救命艇が向かっていった。
 キラー衛星a113は、たる形で、前面には巨大なレーザー砲がつ
き出ている。両側には太陽集光板が翼の様に拡がっていた。
 「ほほう、ジャップの神風アタックか」
 ヤノーシュはレーザー砲をゆっくりと、高速艇に向かい照準を
める。
 高速艇は被弾し、速度がおちてくる。
 「なぶり殺しといくか」
 ヤノーシュは、朝賀の艇をゆっくりいたぶるつもりでいる。

 ゼウスステーションの中でブキャナンは気をもんでいた。
「何をやっているんだ。アサガめ。我々の今までの苦労が水のあわ
になる」

 アサガは、このキラー衛星に焼き殺されてもいいと考えていた。
 ブキャナンに見いだされた後、アガサはリビアへ送り込まれ、テ
ロリストの訓練を受けた。
 いつも気がかりだったのはジュンリバルボアとバルボア博士の事
だった。果して生きているのかどうか。思い悩みながらアサガは生
きて来た。やがて彼が日本人の亡命グループへとINSから送り込
まれても、その問題が常にアサガの心に陰を宿していた。
 救命艇にあたったレーザー光が衝撃を与えアサガを現実にひきも
どした。

「どうだ、ジャップめ、お前は標的になりに来たのか」
 ヤノーシュは毒づく。
「くやしかったら、一発でも返してみろ」
 救命艇には二発の(ンドミサイルしか装備されていない。
「くそっ」
 アサガは、その内の一発の(ンドミサイルを反射する。キラー衛
星を直撃する。が何の変化もない。
 「どうだ、自分たちの無力さに気づいたか。ジャップめ」
 アサガは目の前がまっ黒になりそうになる。

ライン(ルトから、ヤノーシュヘ怒りの声が届いていた。


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 「ヤノーシュ、何を遊んでいる。はやくそいつを処分して、アルゴ
ステーションを確保しろ」
 「はい、はい、わかってますよ。ボス。しかし少しぐらい遊ばせて
下さいよ」
 「ならん、今は一分一刻を争う時だ。君の趣味のために、そのa-
13を渡したわけではない」
 「へい、わかりましたよ。ボス」
 ヤノーシュは受信装置をたたき壊した。
「この際、一度だけ助けてやり、恩をうるか」
 ゼウスステーションの中にいるブキャナンはつぶやいた。それか
ら一つのスイ。チを押す。
 キラー衛星が、急に停止した。操船不可能になる。
 「うっ、どうしたんだ」
 ヤノーシュはあわてる。その間満身創夷の高速艇は、キラー衛星
の後側に廻り込む。
 アサガはマニュピュレーターを取り出し、自分の艇と、キラー衛
星をドッキングさせた。
 「くそっ、ジャップめ、キラー衛星ごと、自分も吹き飛ぶっもりか」
 ヤノーシュは、宇宙服を着て、(。チから体をのり出してきた。
手には斧を持っている。
 マニュピュレーターを切り離そうとする。
 アサガも、それを防ぐため、艇の外へ出る。
 がっちりとつなぎあった衛星と高速艇の上で二人はお互いを見る。

「ヘーい。ジャップ、お前にガッツがあった事は認めてやる。俺は
アントン=ヤノーシュだ」
「私はケン=アサガだ」
「オーケー、アサガ、アルゴステーションを確保する前に。手初め
にお前を片づけてやるぜ」
 ヤノーシュはつながっているマニュピュレーターの上を歩いてき
て、斧で切りかかる。
 アサガはヤノーシュの斧をきわどい所で受けながし、背後から足
払いをかける。
 ヤノーシュは前のめりに倒れ。高速艇上からすべり落ちそうにな
るが、か&うじて、ペリスコープをつかんだ。斧は空間に消える。
 アサガも、高速艇からすべり落ちる。アサガもテレメーターアン
テナをつかんで、はいあがる。
 再び、マニュピュレーター上にあがった二人は対峙する。二人は
同時に作業用リベット打ち器を手にしていた。
 リベットが同時に発射され、アサガは頭部バイザーにそれを受け
た。
 アサガのリベ。卜は、ヤノーシュの正面の生命システム制禦板を
直撃していた。
 ヤノーシュは、アサガの体を艇からはらい除けた。それからヤノ
ーシュは高速艇のドアをくぐり、コックピット内に潜り込む。自爆
装置をはずすためである。
 宇宙空間で意識がもどったアサガは手元の小型スイッチを押した。
 高速艇に仕掛けられた爆弾はキラー衛星ごと吹き飛んだ。閃光が
アサガを盲いさせた。爆発の衝撃波が、アサガの体を遠くの宇宙空
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間へと吹き飛ばしていた。
 「ライン「ルト議長、ヤノーシュがやられました」ファーガソンが
残念そうにつぶやく。
 「ジャップめ。こうなると、政治的交渉しかないわけか」
 ライン(ルトは冷や汗を流しながらつぶやいた。
 「アサガ、目ざめろ」
 アサガの頭の中に声が響いていた。
 「誰だ。私を目ざめさせるのは」
 アサガの声は自分自身の体の中を響き渡っている。
 「ブキャナンだ。アサガ君、君は仕方がない奴だなあ。キラー衛星
をストップさせてやったのに。今度からはあまり目立つ活動はしな
いでくれ」
 ブキャナンの声もアサガの苦痛をやわらげはしない。
 「君のナショナリズムにも困ったものだな。君達日本人という奴は、
激情すると、恐るべき行動に出るという事がよくわかったよ」
 「俺を助けてくれ」
 「おやおや、君は自殺するつもりじゃなかったのかね。しかし私達
のゼウスから救命艇を出すわけにはいかんだろう」
 「が。私はINSにとっては大事な人間のはずだぞ」
 「おやおや、今度はおねだりかい。わかった、ヒントをあげよう」
 「なんだ」
 「君の足元の方を見ろ。黒い物体が見えるだろう」
 「見える」
「あれは、アルゴステーションの宇宙機雷だ」
「それで」
「あれを爆発させろ。そうすれば衝撃波で、逆にアルゴステーショ
ンの方までもどされるはずだ」
「俺は武器など持っていない」
「しっかりしてくれ、アサガくん。君の宇宙服にはもう一発の小型
ミサイルが装着されているはずだ」
「タイミングがわからん」
「タイミングをあわせてやる。それ今だ」
 アサガの右腕から(ンド=ミサイルが発射された。
 数分後、アサガの体はアルゴステーションの外壁にたたきつけら
れた。
 ヤコフ21の意識がわずかに戻ってきた。先刻の角田の一撃はまだ
完全にヤコフ21の生命装置を停止させてはいなかった。ヤコフ21は
首と右手右胸だけで動き出す。それから下は角田の日本刃で切り離
されていた。
 ヤコフ21は中央制禦室へ上がるシャフトまで辿り着き、エレベー
ターのスイッチを押す。
 エレベーターが中央統禦室へつく。ヤコフ21は右手でバランスを
とり、少しずつ、制禦室へ進む。
 左眼でゆっくり中をのぞき込む。どうやら中には二人しかいない
ようだ。二人はCRTに釘づけになっている。その一人をねらう。
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ヤコフ21は右手から(ンドミサイルを発射した。
 花田の体に衝撃がおそった。宇宙服の背面が黒焦げだ。
「花田さん!」
 角田が叫び、後をふりむく。ヤコフ21の上半身に気づく。
「こいつ、まだ生きていたか」
 角田は、日本刃でヤコフ21の首を切りさいた。
 花田はフロアに倒れていた。
 「花田さん、しっかりして下さい。あなたがいなければ、日本人を
だれが守るのですか」
 花田は しい息の下でしゃべる。
 「君たちがいる」
 「でも、あなたの指導がなければ」
 「いいか、花田は一人ではない」花田は意外な事を言う。
 「何ですって」
 「花田万頭は伝説の人。日本人の守り神なのだ。誰が花田になって
もかまわん。VTR技術とCG技術があれば、映像で作りあげる事
ができる。
 本物の花田万頭は何十年か前に死んでいる。私はその影武者にす
ぎん。日本の情報省が作りあげたイルージョンにすぎん。そんな影
武者でも、ここまでやってこられたのだ。君にできないわけがある
まい」花田は息をつぐ。
 「角田くん、このVTRを全世界にむかって放送するんだ」角田に
花田はテープを渡す。
 角田は花田に言われた通り、そのテープを流す。テープが廻り出

した。
 『こちらはアスカステーションだ。アルゴステーションは我々、日
本人グループが占拠し、アスカステーションと名前を変えた。
 全世界に生存している日本人諸君、いかなる方法をとってでも、
ここに集まってくれ。

 このアスカステーションは日本人解放区だ。
 JVOの諸君、先刻まで、日本本土に向けられていたミサイルは、
君達の国に照準を変えてある。もし、日本人達がアスカステーショ
ンに辿りつく事を防害した場合、自動的にミサイルは発射される。
このミサイルの威力は君達がよく知っているだろう。なにしろ君達
が作ったんだからな……」
「花田さん、映像は全世界に流れています。成功です」
 涙ぐみながら、角田は言った。しかし、花田の反応はない。
「花田さん……」
 が、花田はうっすらと眼をあけた。そして口を動かす。
「角田くん。これからは君が花田に……」
 花田はこときれた。
「わかりました。花田さん。花田万頭は絶対に死にはしません」
 いつの間に、残っていた日本人形達が集まっていて花田の体をと
り囲んでいた。

二〇〇五年 フランス アルベーヌ市

ド=ヴァリエは自宅で、TVを見ながら、怒り狂っていた。目の
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前のTVには、アスカステーションヘ向かう日本人達のロケ。卜が
映っている。
 「ライン(ルトめ、何てざまだ。Bプランの命とりになる。さらに
はJVOの命とりだ。だいたい日本人に加えてアジア人。アフリカ
人どもも気にいらん。この地球上には我々、白人のキリスト教徒だ
けで充分だ。我々白人は神に選ばれた人種なのだ。我々のみが地球
人なのだ」
 ド=ヴァリエは独り毒づいていた。
二〇〇五年 アスカステーション居住区
「アサガさんだね」
 通路から歩いて来た男はそう言った。アサガの知らない男だった。
「そうだが、君は」
「これを」男はアサガの手に小さなカプセルを渡す。
「何だこれは」
「いいから。持って帰れ」
「君は何者なんだ」
「ゼウスからの使いだ」
 そう言いおくと、男はすばやく通りから消えた。
 アサガは傷がいえ、アスカステーション内に一部屋を与えられて
いた。男から渡された箱にはROMがはいっていた。機械にかける。
 CRTにブキャナンの顔が映る。
 『アサガ君、まずはおめでとうを言おう。君は英雄になった。そし
てアスカステーションでは大きな役割を与えられるだろう。君は日
本人グループのエリートになった。がアサガくん、我々INSの手
から逃れられんぞ。これを見ろJ
 CRTにジュンの姿が映っている。
 「ジュンー」アサガは叫ぶが、その声はとどくわけはない。おまけ
にジュンは子供をだいていた。
 『この子供が、誰の子供かわかるか』
 ブキャナンはニヤリと笑う。
『君の子供だよ』
「何だって!」
『いいかね、アサガ君、我々の手からは君は逃がれられんのだよ。
これからの連絡を楽しみにしたまえ』
 映像はとぎれた。アサガは肩をおとし、自分の机の前で頭をかか
えていた。
 放射能嵐が吹き荒れている。
 地球表面に、人類が生息できなくなって久しい。
 宗教戦争が勃発し、全世界は炎と化した。各々の宗教にとって、
それは聖戦だったろう。
 大空をいきかったミサイルは、地球上をさながら聖典上の地獄と
化した。
 生きながらえた地球人達は、地球軌道上の宇宙ステーションへ移
住、さらには他の星へ非難する者も続出した。
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VE紀元50年 電子頭脳チャクラ

 地下で、わずかながら生命の炎が燃えていた。
 地下数十m下、地球連邦が大戦以前に作りあげていた遺伝子バン
クである。
 電子頭脳チャクラは、定期的に、観測穴から気候観察ゾンデをあ
げていた。
 放射能嵐がおさまりかけた時、チャクラはプログラムを作動させ
る。
 マニュピュレーターは精子と卵子のカプセルを1つずつ選びだし、
接合させた。
 人工胎盤の中で人の形をとっていく。
 チャクラのマニュピュレーターが選択したのが日本人の遺伝子だ
とは誰が知ろう。
 数力月が経ち、子供が生産された。そして遺伝子バンク内にあっ
たマザー機構によって育てられる。双生児だった。
 観測ゾンデが再び、地上に突出し、成長可能な状態であることを
告げる。
 電子頭脳は二人を、エレベーターに乗せ、外界へ向かわせる。
 ロボットマザー。マギーは育てるべき子供をうしなって数十年た
っている。

 時折、家屋の廃墟で、子供を発見するのだが、死体だったり、口
ボットだったりした。
 彼女は失望をくりかえし、地球上を文字通り、放浪していた。
 マギーを作りあげたロボット日‥アーキテクトは優秀で、自己保全
機能をつけていた。それゆえ、彼女は自分の体が故障をおこしそう
になると、どこかの機械をみつけだし、自分の体に合う様に加工し
ていた。それが、彼女を一人で、数十年の間、機能もストップせず、
動かしていることになるのだ。
 マザーは記憶のある臭いをかいだ。
 「この香りは」
 一瞬、彼女の機能がダメになったのではないかと疑った。香りは、
そうなつかしい子供用のパウダーの臭いだった。
 人間の子供がいる。
 彼女の胸は高なった。
 今までのようなロボットや、奇形動物ではない、本物の人間の子
供。
 彼女の赤外線探査機能は、体温ゾーンをとらえていた。
 あきらかに、人間の子供だった。それも二人も。
 彼女は嬉嬉として二人をだきあげ、二人を育てる安全な環境を探
そうと決意していた。
 観測穴からチャクラはそれを見て、一安心をした。
 直後、チャクラの意識はフェイドアウトした。遺伝子バンクをさ
さえていた地盤が地すべりをおこし、チャクラもろとも遺伝子バン
クを押しつぶしていた。
 マギーは地震を感じると同時に、二人の子供をかきいだき、体を
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まるめる。
 やがて、地震がおさまると、マギーは歩き始めた。


VE紀元98年 地球

 白色ステーション連合から地球探査隊が着陸した。過去の記録
より、遺伝子バンクを確認しにきたのだ。彼らは、遺伝子バンク
地震で崩壊しているのを発見する。
わずかながら採取できたカプセルをステーションへ持って帰る。
そのカプセルから数人の子供が造形された。
ジャップス=デイズ
   〈ビッグ日‥オープユング〉 終
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